多くを語りすぎてしまうこと、描きすぎてしまうことがよくありました。
だから…という訳ではないのでしょうが、2016年大晦日、旅行先の山梨で脳卒中(視床出血)を発症。突然、右手右足が全く動かなくなりました。
起こってしまった現実に困惑、絶望。
それと同時に、そのときの悲観的な感情を押し黙らせてでも、前に進むことを考えなくてはなりませんでした。
思うように動かない自分の身体に問いかけながら向き合う以外にすべはなく、暗中模索が続きました。
半年間の入院生活。その後もリハビリを続け、お陰様でなんとか、沈黙していた右手右足は少しずつ動かせるようになりつつあります。
発症後一年が経過した現在、不安定ながらもゆっくりと歩けるようにもなりましたが、いまだに右手は絵筆を持つには実用的ではなく、左手でどうにか描く線はもどかしくて、考えていることの半分も描きあらわせません。
けれども、たとえ不完全でも伝えたいことがあり、それを実行する意思があれば前に進むには充分で、それが自分の表現にほかならないと思いました。
今、見上げる空の下には、あっけらかんと「青い風景」が続いています。
まだまだ思い通りにならない身体は目の前の風景に委ねるしかなく、やっと引くことができる左手の線は、不器用でたどたどしい軌跡を描きます。
それが妙に愛おしくなることもあり不思議です。
今回の作品はほとんど自分のためだけに描きました。
本当に語るべき言葉、描くべき線を一つ一つ紡ぎ合わせて、ここを踏みしめてゆっくりと歩いてゆくしかない今の自分です。
2018年1月 上杉一道
上杉一道
群馬県高崎市生まれ(高崎高校在学中に山口薫作品に触れ画家を志す)
武蔵野美術大学卒業(麻生三郎に指導を受ける)
上野の森美術館大賞展('83・'87・2010 賞候補)/モダンアート展('89 ~'97)
北の大地展ビエンナーレ('98 日本エアシステム賞)/写実画壇展('04 ~以降毎年)
個展:ギャラリーアートもりもと・画廊すいらん・広瀬画廊・はまゆう山荘作品展示
高崎市庁舎21 階アートワーク展示・詩季画材ギャラリー 等
現在:写実画壇会員・群馬県美術会理事